マズローの法則

人間の欲求には5つの段階があるとする心理学の理論。

最終更新日:2022-6-12

半世紀も前に生まれた理論ですが、いまだ根強い支持を受けています。

たしかに「◯◯が欲しい」という人間の欲求は消えることはありません。「◯◯」という対象は変化しても「欲しい」が消えることは想像できません。

マーケティングの分野で根強い人気

これはマーケティングにも活用できます。ビジネスは欲求のある場所(市場)が必要ですから当然といえば当然です。

ビジネスには市場が必要。市場は欲求のあるところにできる。欲求のないところに市場は成立しない。

だから、ビジネスと人の欲求は切り離せない。欲求を顧みないビジネスは成功しない。

ピラミッドのような5段階

以下の5段階で、下から順に昇り詰めるという考えです。つまり人は自己実現に向かって、絶えず成長したいという欲求に動かされている、という考え方です。

  • 生理的欲求
  • 安全の欲求
  • 社会的欲求
  • 承認欲求
  • 自己実現の欲求

どの欲求を満たすか

マーケティングで大事なのは、同じものを買う場合でも人はそれぞれ違う欲求に導かれていることです。

そして、欲求を満たすことで価値を感じてお金を支払います。

例:服を買う

  • 安全の欲求:寒さを防ぐ
  • 社会的欲求:TPO、孤立したくない、ばかにされたくない
  • 承認欲求:ファッションブランドで身を包みたい
  • 自己実現の欲求:人に笑われても奇抜な服を着たい

市場とは人の欲求の上に成り立っています。そして、多くの人が欲求を抱いている分野は大きな市場になり、誰も欲求を感じていない分野は市場として成立しません。

そのため、どの欲求にアプローチするかはマーケティング戦略の重要なスタート地点になります。

ここがマーケティングで人間の欲求を深く理解する理由になります。

新製品・新商品を企画する場合

「どの欲求を満たすか?」を考えるということは、「どのカテゴリーの客層をターゲットにするか?」と言い換えることができます。

既存の製品・商品の場合

この製品は「どの欲求を満たすものか?」「どの欲求を持っている客層をターゲットにするか?」を問い直すことになります。

  • 生理的欲求を満たしたい層
  • 安全の欲求を満たしたい層
  • 社会的欲求を満たしたい層
  • 承認欲求を満たしたい層
  • 自己実現を満たしたい層
  • 生理的欲求を満たして、次は安全の欲求を満たしたい層

欲求の順番は一方向ではない

マズローの法則では「欲求は下から順に生まれる」のが基本原則ですが、あくまでも原則であって欲求は時には順番を無視することもあります。

たとえば、寒くても友人や同世代がミニスカートなら自分もミニスカートにするのは、安全の欲求より社会的欲求を優先していることになります。

また、周囲とのあつれきを招くリスクがあっても奇抜なファッションに身を包むひともいます。つまり、安全の欲求や社会的欲求を通り越して自己実現の欲求を優先しています。

さらに、もう生きている時間が残り少ないことを意識した場合は、生理的欲求や安全の欲求よりも人とのつながり優先して社会的欲求を満たそうとしたり、やりたかったことを追及する自己実現の欲求を優先する場合があります。

背後にある欲求

欲求の背後には別の欲求が潜んでいる場合もあります。これが本音の欲求の場合もあります。もしかしたら本人すら自覚していない欲求かもしれないし、あえて隠している場合もあるでしょう。

美味しいものが食べたい

「美味しいものが食べたい」という欲求は、「安全の欲求」と考えられています。でも、背後にある本当の欲求は別にある可能性があります。たとえば、

  • 「美味しいものを食べて、友達に自慢したい、SNSで発信したい」 → 承認欲求
  • 「いままで食べたことがない味を体験したい」 → 自己実現欲求

となります。

おしゃれな服が着たい

  • おしゃれな友人と同じようにしたい → 社会的欲求
  • モテたい → 承認欲求
  • 優越感に浸りたい → 承認欲求
  • 自信を持ちたい → 自己実現欲求

本当の欲求を見つけるには

より高次の欲求に目を向ける。人の欲求は「生理的欲求」から始まり、「自己実現の欲求」に向かって進む傾向があります。

ですので、より上の欲求を感じている人ほど欲求が強い欲求を持っていることになります。

物質的欲求よりも精神的欲求を優先する

歯磨き粉を買ってほしい場合、口臭予防という社会的欲求はたしかに強いですが、「爽やかな香りの人」という承認欲求を刺激されたほうが「買いたい」という欲求が強まります。

外的欲求よりも内的欲求を優先する

生理的欲求

ピラミッドの一番下になる欲求で、最低限の生命維持の欲求であり、人間の本能にかかわる欲求です。欲望の出発点ともいえます。

  • 食欲(空腹を満たしたい)
  • 睡眠欲
  • 性欲
  • 呼吸
  • 排泄欲
  • 今、感じている痛み、あるいは体調不良を取り除きたい

この欲求が危機的状況だと、他の欲求が入り込む余地はほぼありません。ですので、2段階目以降の欲求を満たす土台にもなります。

平和な日常生活でこれを強く意識することは少ないのですが、欲求の5段階の中ではもっと強い欲求です。

安全の欲求

ピラミッドの第2段階の欲求で生理的欲求が満たされたら、次に問題になるのが安全の欲求です。

外部からの攻撃に対して安全で、健康で経済的にも安定した環境で生活したいという欲求です。

日常が安定した状態でありたいという欲求です。言い方を変えれば「不安を取り除きたい」という欲求です。

安全の欲求の例

  • 健康への不安
  • 犯罪への不安
  • 災害への不安
  • 生活資金への不安
  • 将来への不安
  • 失業への不安

社会的欲求

ピラミッドの第3段階の欲求です。社会的欲求は「孤独を避けたい」欲求です。

  • 寂しい
  • 誰かと話したい
  • 友だちが欲しい
  • 結婚したい
  • 愛されたい
  • 人間関係を持っていたい
  • 恋人が欲しい
  • 家族が欲しい
  • 仲間が欲しい
  • 社会に適合したい
  • まわりから浮きたくない

これらは、何らかの社会集団に所属していたい欲求です。

こんな言い方もされます。

  • 所属と愛の欲求
  • 社会的帰属欲求

人間は集団で暮らしてきた動物なので、どんなに安全な環境でも孤独だと不安です。属する集団の一員であることを自覚して暮らしたいという欲求です。

だから、家族、組織(会社、グループ)に属して安心感を得たいのです。つまり「自分を受け入れてくれる親密な他者の存在」が不可欠なのです。

承認欲求

ピラミッドの第5段階の欲求で、社会的欲求の次に生まれるのが承認欲求です。

集団に属するだけでは満足できなくなり、

  • 高く評価されたい
  • 自分の能力を認められたい
  • すごいと思われたい
  • 褒められたい
  • 昇進したい
  • SNSで「いいね」がほしい

という欲求です。

学校や会社に属していれば社会的欲求は満たされます。でもそこで、

  • 評価が低い
  • 親しい人がいなくて孤独である
  • いじめを受けている

自己実現の欲求

第4段階までの欲求が満たされると、残っているのは自己実現の欲求です。自己実現の欲求は以下のような思いから湧き上がってきます。

  • もっと成長したい
  • 自分にしかできないことを成し遂げたい
  • 自分らしく生きていきたい

夢や理想、目標といったものに対して近づきたい、達成したいという欲求と言えます。

具体的な例でいえば以下のようなものです。

  • 俳優になりたい
  • アイドルになりたい
  • ピアニストになりたい
  • 起業したい
  • エンジニアになりたい

このような夢あるいは人生の長期目標がまだ達成されていないとき、理想の姿に近づきたいという欲求が生まれます。

マズローの法則をマーケティングに活かす

マズローの法則はすでに広くマーケティングに生かされています。

レストランの例でいうと以下のようなイメージです。

  • 生理的欲求:おなかを満たしたい、おいしいものを食べたい
  • 安全の欲求:心地よい空間、衛生的である
  • 社会的欲求:丁寧な接客で扱われたい
  • 承認欲求:店に訪れたことを自慢したい、SNSに投稿したい
  • 自己実現欲求:難しいところ。でも新メニューやサービス開発につながるかもしれない

掃除機だと以下のようになります。

  • 生理的欲求:
  • 安全の欲求:部屋をきれいにして快適な空間で暮らしたい
  • 社会的欲求:音がうるさくない掃除機が欲しい
  • 承認欲求 :デザインが優れた掃除機が欲しい
  • 自己実現欲求:掃除には時間を取られたくないので自動で掃除してくれる掃除機が欲しい

住宅を購入する場合だと以下のようになります。

  • 生理的欲求:ローコスト、即入居
  • 安全の欲求:耐震性、高いセキュリティ、外からの視線、快適な空間
  • 社会的欲求:家族との団らん、ホームパーティができる、近隣との調和
  • 承認欲求 :デザイン性が高い、見るからに高級住宅
  • 自己実現欲求:自己設計、自由設計、DIY住宅

就職や転職の場合には以下のようになります。

  • 生理的欲求:日払い・週払い、未経験者可
  • 安全の欲求:安定収入、長期採用、堅実な会社、失業の不安が小さい
  • 社会的欲求:アットホームな雰囲気、同世代が多い、世間的に低く見られない
  • 承認欲求 :世間的に高い評価、大企業、能力主義、昇進の機会がある
  • 自己実現欲求:スキルが身につく、やりがいがある、夢や目標に近づける

マーケティングに活用 : レストランなど飲食店

生理的欲求に応える

他店では出てこないだろうの量をリーズナブルで提供する。

とにかく味で勝負。遠方からでも客が来る。

安全の欲求に応える

周囲が気にならない空間をつくる。

ファミリーでくつろげる空間をつくる。

恋人同士で静かに過ごせる空間をつくる。

日常では味わえないロケーションをみせる。

秘密基地めいた空間を演出する。

社会的欲求に応える

接客技術、スタイルを磨く。

客との親密なコミュニケーション能力を高める。

来店客の承認欲求に応える

  • SNSで自慢しなくなるメニューを開発する
  • 他店と差別化した特別なサービスを提供する

ターゲット層を絞る

このようにマズローの法則を応用すると、ターゲット層を絞ることができます。ターゲット層の絞り込みには、そこに十分なボリュームがあるかも大事になります。

また、特定したターゲット層のペルソナを浮かび上がらせるヒントにもなります。

ペルソナが明確になれば、キャッチコピーやセールスライティングも具体的な候補をつくることができます。

第6の欲求がある

後年、マズローは欲求の第5段階の上に高次元な欲求がある、と唱えています。これを「自己超越の欲求」といいます。

第5段階までの欲求は、段階はあるもののあくまでも自己の範囲、つまりエゴの範囲を超えていない。

第6段階はそのエゴを超える領域にあります。

自己超越の欲求は、他者や社会、あるいは未来に貢献したいという欲求です。

5段階を別の視点で分類

マズローの法則は5段階ですが、視点を変えることで別の分類方法もあります。これらの分類は、マズローの法則の理解を深めるのに役立ちます。

  • 物質的欲求と精神的欲求に分類
  • 外的欲求か内的欲求に分類
  • 欠乏欲求と成長欲求

物質的欲求と精神的欲求

生命維持に必要か、心の満足を求める欲求かで分類する。

物質的欲求

生命維持に必要な欲求。

  • 生理的欲求
  • 安全の欲求

精神的欲求

心の満足を求める欲求。

  • 社会的欲求
  • 承認欲求
  • 自己実現の欲求

外的欲求と内的欲求

自分に関係する外部環境を満足させたい欲求か、自分の内面を満たそうとする欲求かで分類する。

外的欲求

自分に関係する外部環境を満足させたい欲求。

  • 生理的欲求
  • 安全の欲求
  • 社会的欲求

外的欲求

自分に関係する外部環境を満足させたい欲求。

  • 生理的欲求
  • 安全の欲求
  • 社会的欲求

内的欲求

  • 承認欲求
  • 自己実現の欲求

欠乏欲求と成長欲求

自分にとって不足しているものを埋めようとする欲求と、欠乏が満たされているのでさらに自分を成長させたい欲求に分類する。

欠乏欲求

自分に不足しているものを埋めようとする欲求。

  • 生理的欲求
  • 安全の欲求
  • 社会的欲求
  • 承認欲求

成長欲求

自分を高めていきたい欲求。とうぜん、自己実現の欲求だけになりますが、それだけこの欲求は大事だということでしょう。

心理学上の分類

マズローの法則は心理学上、「ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)」というジャンルに分類されています。心理学上の分類は以下になります。

  • ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)
  • 行動主義心理学
  • 精神分析学

ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)

主観的な心の動き(意欲や感情など)を重視して人間の心理を研究する。

行動主義心理学

外界の刺激に対する反射の集まりとして研究する。しかし、人間の心理をあまりに単純に考えていると指摘されている。

精神分析学

心の動きは、意識できない「無意識」の世界として研究する。しかし、「無意識」は存在が実証できないものが理論に含まれている点を指摘されている。

近年では「深層心理」として研究され、「意識できない領域(無意識)が意識に影響を与えている」として研究が進んでいる。

マズローの法則には批判もある

半世紀も前にでた理論なので批判的な考えもあります。そのひとが、欲求に段階をつkていることです。どの欲求が上位にくるか優先するかは、その場面や心理的状態でも変ってきます。「段階をつけるのよくない」という考えです。

なにが正しいかは人それぞれですが、どちらにしても活用を前提に考えたほうが良さそうです。